交渉を上手に運ぶ心理手法としてイエスセットというものがあります。
このイエスセットについてわかりやすく説明したいと思います。
- 様々な交渉で使えるイエスセットとは?
- 相手との交渉をスムーズにするイエスセットの使い方
この記事を読むと「イエスセット(yesset)」のことがわかり、様々な場面で使えるようになりますよ。
目次
イエスセットとは?
イエスセット(yesセット話法)とは、相手に「イエス」と言わせ続けることで心のベクトルを肯定的な方向へ向け、その後の相手の返答を「イエス」と言わせやすくする、交渉における会話の心理テクニックのことです。イエスセット話法ともいわれます。
イエスセットは上手に使うと、ビジネスや恋愛・コミュニケーションなど様々な場面で効果的に応用できます。
それでは、イエスセットについて詳しく見てみましょう。
イエスセット(yesセット話法)の仕組み
イエスセット話法の仕組みを説明する心の原理として、一貫性の原理と言われるものがあります。
人の心は、一度「ある状態」のベクトルに向くと、そのベクトルの方向をなるべく保とうとするのです。
この心の仕組みのことを一貫性の原理と呼びます。
一旦心が傾くと、肯定的な気持ちであれば肯定し続けようとし、否定的な気持ちであれば否定しようとし続けるのです。
この一貫性の原理を「イエス」という言葉・返事を引き出す目的で使うのが、イエスセットなのです。
この仕組みは、精神科医であり現代催眠療法家のミルトン・エリクソン博士が使っていました。
クライエントの心を開き、癒すための仕組みとして利用していたのです。
そのため、この方法はNLP(神経言語プログラミング)でもよく教えられています。
ミルトン・エリクソン博士の言語モデルの詳細はこちらです。→ミルトンモデルとは?
イエスセットの方法
イエスセットの方法を具体的に説明します。
まず、コミュニケーション相手に「イエス」と3回以上返答させる(思わせる)質問を投げかけます。
こうすることで、相手はその後も「イエス」と言いやすい心のベクトル(状態)が作られます。
イエスセットのわかりやすい流れの一例として次をご覧ください。
えびちゃん
うにちゃんおはよー!今日あっついねー!(質問1回目)
そうだねー!(イエス1回目)
うにちゃん
えびちゃん
なんか日差しもすごいねー!(質問2回目)
ほんとだよねー!(イエス2回目)
うにちゃん
えびちゃん
そろそろ10時だねー!(質問3回目)
ほんとだねー!(イエス3回目)
うにちゃん
えびちゃん
あ、ちょっとこの荷物持ってくれる?(交渉事)
いいよー!(交渉成立)
うにちゃん
このように3回以上イエスを言わせたあとに、交渉事を入れるとスムーズに返事をもらえるのです。
上の場合、えびちゃんは最初から荷物を持ってもらいたかったわけですが、いきなり交渉すると、うにちゃんに断られるかもしれません。
そのため、まずは関係なさそうな話題(天気や時刻)で気をそらしつつ、心のベクトルを肯定的にもっていき、最後に「荷物」の話を出しました。
このようにすると、気づかれずに交渉ごとの成功率があがるのです。
イエスセットの効果
イエスセットの効果の一番は交渉ごとの成立ですが、他にも様々な効果があります。
他の効果も知ることで、イエスセットの深みが増し、さらに上手に使えますよ。
相手の緊張をとりのぞく効果
イエスセットの効用として、相手の緊張感をやわらげてしまうことがあげられます。
例えば、初対面や交渉事が控えている場合は緊張感が邪魔ですよね。
もしもあなたが相手の緊張感をとりのぞくことができたら、好感度は高くなります。
そのうえで、イエスセットは交渉事もスムーズにしてくれるのです。
ラポール(信頼関係)を作る効果
コミュニケーションにはラポール(信頼関係)を作ることが重要と言われます。
イエスセットは、相手の心をイエスに持っていきますが、このことは相手からすると話しやすさを感じます。
そのあなたの話しやすい雰囲気が、相手の心を緩ませて、信頼関係をはぐくみます。
そうすると交渉事がスムーズに進みやすいのです。
コミュニケーションに必要なラポールの詳細はこちらです。→ラポールとは?
相手の注意を惹く(惹き続ける)効果
イエスと言い続けている相手は、肯定的な心地の良い状態になります。
催眠療法家のエリクソン博士が好んで使ったというように、イエスセットは催眠のテクニックの一部でもあるです。
そうすると、相手の無意識はあなたに向かって興味関心を向けるようになります。
あなたの発言を一生懸命聞こうとするベクトルになるのです。
場を温めることができ、話しやすい雰囲気を作る効果
お互いイエスと言い続けていると、その場の雰囲気が和みますよね。
相手も「そうなんですよ」と言い続けていますし、それを聞いているあなたも安心できると思います。
イエスセットは、あなた自身もリラックスでき余裕を生むテクニックなのです。
イエスセットのポイント
イエスセットの方法にはポイントいくつかあります。
ポイント1:質問内容は相手にとってのイエス(事実)であること
イエスセットを成功させるには、3回の質問が大切です。
この質問が失敗していると、交渉事にはたどり着けません。
この質問のポイントは、「相手が経験している事実」を質問として投げかけるというところです。。
自分が主体ではなく、相手が主体です。
そういう意味では、お天気の話や最近のニュースを使って話題にするのが無難です。
そして、上で使ったように、「もうすぐお昼ですね」なども相手にとって事実です。
他にも、「今日は気温が25度まで上がるみたいですね」などもあります。
「今日は暑いですね」は「わたし」が暑いと解釈する主体になっています。
相手も暑そうにしているのなら、相手にとっても正解ですが、寒そうにしていたら「ノー」と言われます。
自分の解釈ではなく、「相手の感じ方や事実を想像して伝える質問」なので、気を付けて使いましょう。
ポイント2:ノーを言いやすくする雰囲気でイエスを言わせる(上級)
少し高度ですが、相手に「ノーを言える雰囲気を与える」ことが大切です。
このノーは最終的な交渉事、例えば契約に関するノーではありません。
相手に対して「否定的なことでも、表現してくださいね」という意味です。
例えば「わからなかったら、なんでも聞いてくださいね」というセリフ。
相手の心の姿勢は「わからない」という否定的側面ですが、それさえも言っていいですよと言う意味で使います。
そうすると、イエスも言いやすい、ノーも言いやすい受容的な雰囲気を相手に与えます。
相手にとって、「あなたはなんて話しやすい人なんだろう!」という状態にすることができるのです。
ポイント3:ノーをイエスに変える(超上級)
余談ですが、催眠療法家のミルトン・エリクソン博士は、今までの催眠療法をくつがえした天才でした。
過去の催眠療法では、クライエントが拒否したら、催眠状態に入らないことが良くありました。
しかし、エリクソン博士は拒否しているクライエントも催眠状態にすることができたのです。
例えば、カウンセリングルームに来たクライエントがうろうろ歩いて一向に座りません。
博士 「どうされたんですか?」
クライエント 「別に…。座りたくないんだ…。」
博士 「そうですか。座りたくないんですね。」
このように博士は動揺せずに、ありのままを受容的に会話を進めます。
すると、今まで非協力的だったクライエントが、椅子に座り博士と話し準備をしだしたそうです。
このように、ノーという態度を受容して、ノーなんですねと言ってあげると人はイエス!と言います。
そうすると、クライエントは喜んで協力しだすのです。
ポイント4:受容の精神
ビジネスの場面でも、相手に誠意をもって対応することが大切です。
イエスセットは、心理テクニックとして使われます。
時としてダークな印象がありますが、実は受容する心の態度なのです。
相手の心を思いやる、心の姿勢こそ本当の意味でビジネスに役立ちます。
イエスセットの例
次にイエスセットが使える様々な場面の例をあげます。
ビジネスの現場の例
イエスセットは契約や商談などで使えます。
また、職場での関係性作りにも使えます。
例えば、イエスセットを使いっぱなしにして、交渉ごとに使わなくても心地の良いコミュニケーションになります。
使い方は、説明したとおりで、相手がイエスと言いやすい質問を3回以上投げるだけです。
あなたが、人としての魅力や心遣いをあらわすためにも、イエスセットは使えるのです。
人柄を見てもらい、人柄を評価してもらうためにも、イエスセットは使えるのです。
ビジネスの世界は厳しいと言われるからこそ、温かい思いやりを感じる気遣いは印象が鮮明になります。
心の姿勢を出すためにも、使ってみてはいかがでしょうか?
ちなみに著書「人を動かす」有名なD・カーネギー氏も 五章「イエスと答えられる問題を選ぶ」で次のように著書で示しています。
話し上手な人は、まず相手に何度もイエスといわせておく。すると、相手の心理は肯定的な方向へ動き始める。これはちょうど、玉突きの玉がある方向へころがりだしたようなもので、その方向をそらせるには、かなりの力がいる。反対の方向にはね返すためには、それよりもはるかに大きな力がいる。
デール・カーネギー,『人を動かす』創元社,1999,346p
セミナー講師やプレゼンの場合の例
最近はZOOMセミナーが多いかと思われます。
ZOOMでも対面でも、あなた一人に対して大勢のお客様と対するときのポイントがあります。
それは、大勢のお客様にとっての事実をイエスセットで使うということです。
一人のひとに合わせないので、少し考えて練習が必要です。
話しやすいのはお天気や最近のニュースなどの話題でしょう。
次に例をあげますね。
うに先生
今日はあったかいですね!
そうですねー!
えびちゃん
うに先生
今日は第一回目の講義ですね!
そうですねー!
えびちゃん
うに先生
テキストは準備出来ましたでしょうかー?
はーい!
えびちゃん
うに先生
では始めましょう!
このように始めることでスムーズに進みます。
カウンセリングやコーチングの例
次にカウンセリングやコーチングの場合のイエスセットの例です。
通常イエスセットは3回から5回ということを伝えられますが、カウンセリングなどの現場ではそんなことはありません。
おおげさに言うならば、イエスセットをエンドレスで使います。
小さな文脈では3回から5回かもしれません。
ただ、カウンセリングという大きな文脈の中では姿勢としてずっとやっています。
そうすると信頼感が増す状態になるので、心の変化も起きやすくなります。
カウンセリングでは交渉事=心の変化なのです。
心がゆるむことで、新しい変化を受け入れることが目的なんです。
恋愛の場合の例
恋愛の場合、告白やデートのお誘いにイエスセットは使えます。
ただ、恋愛も一旦デートに行って終わりではありません。
イエスセットで目的を果たしたら終わり!ではありませんよね。
交渉事というよりも、二人が仲良くいられる、あなたとなら安心できる、そう思ってもらうために使いましょう。
相手がイエスと言える話題を続けてあげるのです。
そして、ノーも言えるようにしてあげる。
うにちゃん
こんなん言われたら惚れるわ!
このように使えたら気づかいの達人です。
あなたに対する好感度がぐんとアップするでしょう。
まとめ
いかがでしょうか。
ビジネスや様々な場面で使えるイエスセットの本質は、相手に対する気遣いの姿勢です。
そこを表面だけ取って、「交渉事さえスムーズに運べばOK」ではなく、相手に誠心誠意を見せましょう。
そのためにイエスセットを利用すると、あなたの人柄も含めて交渉事は上手くいくはずです。
ギブ&テイクのギブを続ける人が、成功者になりやすいと言います。
相手に話しやすい雰囲気を作ってあげることで、まわりまわってあなたの成功になります。
あなたもイエスセットを使って人生の成功者になりましょう。
イエスセットはNLPの中の「催眠療法」で学べます。